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「楽園(上・下)」宮部みゆき


「楽園(上・下)」
宮部みゆき
文藝春秋
2007-08
勝手に評価:★★★★★

 「模倣犯」から9年―前畑滋子 再び事件の渦中に!
 「模倣犯」事件から9年が経った。事件のショックから立ち直れずにいるフリーライター・前畑滋子のもとに、萩谷敏子という女性が現れる。12歳で死んだ息子に関する、不思議な依頼だった。少年は16年前に殺された少女の遺体が発見される前に、それを絵に描いていたという――
 自宅の床下で16年間眠り続けた少女の死体。その死体を“透視”した少年の交通事故死。親と子をめぐる謎に満ちた物語が幕を開ける――(上巻本の帯より)

「模倣犯」を読んだばかりだったので、私自身は9年という歳月は感じてないわけですが(笑)、宮部氏と前畑滋子はそれを経た「何か」があったんだろうなぁと、読んでみて感じました。

上巻は透視した少年の能力が本物かどうかの検証、下巻は16年前に殺された少女についての調査が主な内容でした。やっぱりどうしても「模倣犯」と比べてしまうのですが、今回はわりとテンポが良く、展開も早くて、読みやすかったです。

「模倣犯」のラストでは、前畑滋子が真犯人を自白させる場面がありました。そして、その出来事が滋子に多少のショックを与えたのだということは理解していました。でも、今回の出だしで想像以上にショックを受けていたことが分かって、驚きました。そして、9年かけてなんとか気持ちを沈めて前を見て、何か大きな段階を越えた感じのオーラを持っていたことに、ほんの少し救われたような気持ちになりました。加齢だけではないライターとしての成長があったように思えました。

序盤では、滋子は萩谷敏子に亡くなった息子についての調査を依頼され、それに伴って16年前の事件に関わっていきました。そのことを当初は「喪の仕事を手伝うのだ」と自他に言い聞かせてやっていましたが、その後、「本当は懲りていない。私は真実を知りたいだけなのだ」ということに気付きます。その場面になって、「あぁ、やっぱり前畑滋子はライターなのだ」ということを感じました。それと同調するように「私はこんな事件を書かずにはいられないのだ。一つ一つ手に取り、検証し、語らずにはいられないのだ」というような宮部氏の呟きが聴こえたような気もしました。そして、私自身も読まずにはいられないと駆り立てられるような気持ちになりました。

16年前に15歳だった少女は、自他共に認めるどうしようもない不良少女で、両親は我慢しきれず殺害し、次女に知れてはいけないと自宅の床下に遺体を埋め、16年間ひたすら隠し続けます。でも、たまたま近所の家からもらい火をしてしまい、家が半壊したことをきっかけに、夫婦は警察に出頭しました。すでに時効は成立していました…。もちろん、これは宮部氏が紡ぎだすミステリーでもあるわけですから、真実はこれだけではなくて、もっと深い事情が二人にはあったんですが、それが下巻後半で暴かれても、私はずっとこの二人を許せませんでした。どんなことがあったって、自分の分身のような子供を殺せるだろうか?それを仕方なかったといえるだろうか?私の勝手な解釈ですが、上巻本の帯に「親と子をめぐる謎」と銘打っているからには、この問題の答えをどう読み手が置くかということが焦点なのだと思います。

ラストになって、奥さんが滋子に当時のまさにその瞬間の様子を語る場面がありました。その中にこんな言葉がありました。

「あなたもご主人も、茜さんが流されてゆくのを止めようとなさいました。最後のチャンスが、十六年前のあの夜でした。あなたは手を伸ばして茜さんをつかみました。つかんで、引き戻したんです」
 そして茜を取り返した。(下巻本文より)


この言葉で、私はやっと一つの真実が見えたような気がしました。許すとか、諦めるとかの感情論なんかもついてこられない、もっと途方も無いところで、何も無い場所に、この家族は進んでいくしかないのだということも感じました。

そして、どんなことがあろうとも、親は親であり、子は子なのだと、この作品を通して感じました。哀しくもあり、懐かしさもあり、切なさもある、温かい涙がこみ上げてきました。
Author: chiro
ま行の作家(宮部みゆき) | permalink | comments(6) | trackbacks(7)
 
 

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コメント:
こんばんは。
「模倣犯」と続けて読まれたんですね。
9年前の事件で大きなダメージを受けた前畑滋子の再起、成長が印象的でした。
私も許せない気持ちでいっぱいでしたけど、この引用部分で、少し落ち着けた気がしました。
comment by: 藍色 | 2007/09/07 1:15 AM
>藍色さん
こんにちは。
ずっと積んでいたので、「楽園」を購入したのを機に一気に読みました。
今回も割り切れなさはありましたけど、自分なりに腑に落ちる内容だったので良かったです。
comment by: chiro | 2007/09/07 4:27 PM
コメント&トラバありがとうごさいました。

「模倣犯」と続けて読まれたんですね〜
私はかなり前に読んだので、忘れている部分もありましたが、滋子は成長したな〜と思いました(ちょっとえらそうww)

また覗かせもらいます。今後ともよろしくお願いします
comment by: すー | 2007/09/07 7:53 PM
>すーさん
こちらこそコメント&TBありがとうございました。

私も滋子は成長したなぁと思いましたよw
そして、今回は自分の意志で何も書かなかったという結論にとても共感しました。
またシリーズ作が出てくれればいいなぁと思います。

私もまた覗きにいきますね♪
よろしくです。
comment by: chiro | 2007/09/08 8:37 AM
私にとっても「模倣犯」はつい最近のこと。
「書く」と言うことが出来なくなった滋子に驚いた訳ですが、いつも「読む」側の私には到底想像もできない悩みや迷いなんかがあるのかもしれないですね。

敏子も茜の母親もわが子を亡くしている訳ですが
その心の中は全く違うんだなって思いました。
comment by: なな | 2007/09/18 11:58 PM
>ななさん
読むのと書くのは、責任の重さというか、心構えというか…いろんなことが違いますよね。
その悩みや迷いは、宮部さん自身のものでもあるのかもしれませんね。

敏子さんと向子さんの心が向かっている先は、正反対なのでしょうね。
どちらも我が子を失って、悲しんでいることに変わりはないはずですけどね…少し不思議ですね。
comment by: chiro | 2007/09/19 8:25 AM
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カバー写真は小山泰介。装丁は鈴木正道。産経新聞連載。 「模倣犯」事件から9年。深く関わりダメージが残るフリーライター・前畑滋子。訪れた荻谷敏子の奇妙な依頼。…12歳で交通事故死した息子・等は、16年間隠されてきた
trackback by: 粋な提案 | 2007/09/07 1:06 AM
楽園 (上)(下) 宮部みゆき 文芸春秋 楽園 (下) 帯に書かれている 『「模倣犯」から9年 前畑滋子、再び事件の渦中に』 を、見たらもう即買いしました。久しぶりの現代もの長編に夢中で読みました(夢中になり過ぎて電
trackback by: 読書日記 | 2007/09/07 7:50 PM
 新刊本を追いかける読書からはとっくのとうに足を洗ったつもりだが、本書は発作的
trackback by: It's a Good Day to Die | 2007/09/11 12:05 PM
楽園 上 楽園 下 宮部 みゆき 山荘事件以降、書くことが出来なくなっていた前畑滋子。あれからフリーペーパーの会社に籍を置き、少しずつ書く仕事をしている。そんな所に友人のライターから一人息子を亡くした女性に会って話を聞いてあげて欲しいとの依頼があっ
trackback by: ナナメモ | 2007/09/18 11:58 PM
楽園 下 出版社: 文藝春秋 (2007/08) ISBN-10: 4163263608 評価:79点 上巻をたっぷり使って、亡くなった少年「等」の超能力を肯定し、下巻からは「娘殺しと死体遺棄15年」事件の謎の解明へと一気に突き進んでいく。 相変わらず語りに過不足がなく、適度に伏線
trackback by: デコ親父はいつも減量中 | 2008/06/09 10:33 PM
フリーライターの前畑滋子は、日本中を震撼させた連続誘拐殺人事件の解決に一役買ったものの、事件を題材にしたルポはついに書けなかった。...
trackback by: ぱんどらの本箱 | 2008/08/28 9:39 AM
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trackback by: - | 2010/07/13 12:19 AM