<< 「鹿男あをによし」万城目学*prev
「片耳うさぎ」大崎梢 >>*next
 

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -
 
 

「模倣犯(上・下)」宮部みゆき


「模倣犯(上・下)」
宮部みゆき
小学館
2001-03
勝手に評価:★★★★★

 公園のゴミ箱から発見された女性の右腕、それは史上最悪の犯罪者によって仕組まれた連続女性殺人事件のプロローグだった。比類なき知能犯に挑む、第一発見者の少年と、孫娘を殺された老人。そして被害者宅やテレビの生放送に向け、不適な挑発を続ける犯人――。が、やがて事態は急転直下、交通事故死した男の自宅から、「殺人の記録」が発見される、事件は解決するかに見えたが、そこに、一連の凶行の真相を大胆に予想する人物が現れる。死んだ男の正体は? 少年と老人が辿り着いた意外な結末とは? 宮部みゆきが“犯罪の世紀”に放つ、渾身の最長編現代ミステリ。(小学館HPより)

この作品、上下巻それぞれ700ページを超える超大作です。長編もいいとこです。背中に悪寒が走ったり、震え上がったり、頭に血が上ってきたり、泣きそうになったり、感動したり…一言では言い表せないです。すごくいろんな意味で心に残る作品なのですが、誰かに気安くススメられるものではないです。だけど、誰かとこの想いを共有してみたいような…何とも言えない作品でした。

この小説を読んでいても、読み終わった今でも、変わらず感じていることが一つだけあります。全体を通して、作者である宮部氏の想いが込められていることです。いえ、込められているというよりは、登場人物を通して、一生懸命語ってるような感じがしました。

犯罪の有無に関わらず、「悪」とは何なのか。「悪」に立ち向かうとはどういうことなのか。正義とは何なのか…。

私は、これを読んでいて「悪」って犯罪者だけじゃないんだなって感じました。事件に関係なくたって、犯罪を犯さなくたって、誰だって「悪」になり得る。そもそも、誰もが「悪」を持っている。そして、「悪」と正義は紙一重、もしくはコインの裏表のようなものなんじゃないかと思いました。

特に、世論というものは恐ろしいと思いました。最初は事故死した男二人が犯人だと決めていたはずなのに、ほんのちょっとした出来事がきっかけで、いや本当は片方は無実で真犯人がいるはずだとコロッと変えて、また決め付ける。

これに対して、宮部氏は作品を通して「世の中の人々は当事者でない限り、犯人は誰だっていいのだ。とにかく犯人を決めて、事件を終らせて、安心したいのだ。不安でいたくないのだ」というようなことを言っています。最初は「私はそんなことない。なんでも決めつけたりしない」と反感を持ちましたが、よくよく考えてみると、やっぱり宮部氏の言う通りなのかもしれないと思いました。テレビや新聞で、大部分では「犯人はあいつだ」と言い、一部では「濡れ衣だ」と言う。私はどちらを本当だと思うのか。でも、私には分からない。だから、大部分の方を信じるしかない。そして、安心して自分の生活を維持していきたいと思うでしょう。

だけど、この小説の良い所は、きちんと犯人が暴かれ、裁かれるということです。世の中は「悪」だけじゃない。人間には思いやりや優しさがちゃんとある、正義はちゃんとある、という想いが負けないくらい描かれています。延々と事件の被害者と加害者の戦いが描かれていて、ポツポツと犯人が置いていった物証が芽を出して。そして、何人かが「こいつがもしかしたら…?」という疑惑を持ち始めます。それがジワジワと広まっていく様は滑稽でもあり、恐ろしくもあり、爽快でもありました。やっぱりこの世にあるべきなのは、真っ当さであり、正義なのだと宮部氏が力説しているような気がしました。劇場型犯罪をする若い世代と戦争を必死で生き抜いてきた世代…価値観の差はあっても、大事なものはずっと変わらないのだと思いました。当たり前なんだけど、ひどくホッとしました。

そして、ラストの有馬義男と塚田真一の場面から若い母親と小さな娘の会話。あれにはホロリときました。こういうドキュメンタリーみたいな小説って、すごく重い内容で読むのに挫けそうになりましたが、あの数ページがあって、読んで良かったと思えました。一筋の希望が見えて、やり切れなさが少しだけ救われました。
Author: chiro
ま行の作家(宮部みゆき) | permalink | comments(2) | trackbacks(7)
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -
 
 
コメント:
chiroさん、こんばんは。
重かったですね。
途中、何度か気分転換の為に明るめの本を読んだりしました。
被害者の家族、加害者の家族の抱える悩みや悲しみ。
情報に操られる部外者達。
色々考えさせられました。
有馬さんの清い姿勢が素敵でした。
ラスト、好きでした。
comment by: なな | 2007/09/06 10:51 PM
>ななさん
そうそう、どちらの立場でも、当事者ではない限りどうしようもできない。
辛いですよね。
どっちつかずでフラフラしていた前畑滋子に腹が立つこともありました。
ラストの余韻は何とも言えませんね。
comment by: chiro | 2007/09/07 4:23 PM
コメントを書く:






トラックバック URL:
http://chiro-address.jugem.jp/trackback/79
トラックバック:
東京都内で起こった連続女性誘拐殺人事件。奔走する刑事たち、犯人像を追うフリーライター、被害者家族と加害者家族の苦悩。 それらを高いところから見おろす犯人の冷酷な視線。 ...
trackback by: ぱんどらの本箱 | 2007/08/29 10:39 AM
模倣犯(1)全5冊宮部 みゆき 新潮社 2005-11-26by G-Tools
trackback by: It's a Good Day to Die | 2007/08/29 5:50 PM
とても分厚い大作ですが、全体的な印象は“過ぎたるは及ばざるが如し”。社会派ミステリー作家として、ひとつの犯罪を足がかりにして、社会のありようを細大漏らさず描き切ろう、という気合とかこだわりには敬意を表しますし、そ
trackback by: ぶっき Library... | 2007/09/01 1:59 PM
模倣犯〈上〉 模倣犯〈下〉 宮部 みゆき 宮部さんの本はあまり読んでいませんでした。ブログを始めてから読み始めたので、これが5冊目。新刊に「模倣犯」に出てくる人が登場するって聞いたので、これはいい機会だと手に取りました。分厚いと知ってはいたんだ
trackback by: ナナメモ | 2007/09/06 10:46 PM
宮部みゆきさんの本に最近はまっています。面白い〜!!
trackback by: rieぞうのお気に入り | 2007/09/13 5:36 PM
宮部みゆきさんといえば、数々の作品がありますが、やはり模倣犯が代表的な作品ということになるのでしょうか。
trackback by: rieぞうのお気に入り | 2007/09/13 5:55 PM
模倣犯 宮部みゆき 小学館 評価☆☆☆☆
trackback by: ハムりんの読書 おすすめの本 感想とあらすじ  | 2007/10/11 8:23 PM