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「サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ」大崎梢

「サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ」
大崎 梢
東京創元社
2007-04
勝手に評価:★★★★☆

 同一書籍に四件の取り寄せ依頼。ところが連絡を入れると、四人が四人ともそんな注文はした覚えがないと……。「ファンの正体を見破れる店員のいる店でサイン会を開きたい」――若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に、名乗りを上げた成風堂だが……。駅ビル内の書店・成風堂を舞台に、しっかりものの書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵のコンビが、書店に持ち込まれる様々な謎に取り組んでいく。短編五本を収録した本格書店ミステリ、好評シリーズ第三弾!(カバーより)

配達あかずきん」「晩夏に捧ぐ」、そして今作を一気に読んでみて…、かなり満腹だ(苦笑)。飽きたわけでもなく、嫌いになったわけでもないのに、なかなか読み進められなかった。

取り寄せトラップ
同一書籍に四件の取り寄せ依頼があり、連絡を入れると四人が四人ともそんな注文はした覚えがないと言われる。実害が無かったため、気を取り直して仕事に戻ると、後日、またしても同じ四人から同一書籍の予約が…。

トップバッターには相応しい内容だが、少し切れ味不足な感じがした。トリックや事件背景などは面白かったが、最後の展開が曖昧に終った気がするのだ。確かにどんな結果が出たにせよ、客のプライベートではあるから、仕方ないのかもしれないが。Aさんが誰でBさんが誰なのか、私としては知りたかった。ちょっと残念。

君と語る永遠
ある日、小学生の社会科見学グループが成風堂にやってくる。その中にグループから離れ、一人で高い棚にある広辞苑を取ろうとしていた男の子がいた。直撃しそうになった男の子を庇う杏子だったが、それをきっかけに男の子は幾度も成風堂へ訪れるようになり…。

時々、杏子の様子を見ていて、少し自己中だったり、思い込みが激しいんじゃないかと疑うシーンがある。しっかり者だが、少しそそっかしいような印象がある。しかし、この話では男の子に向けられた「疑いの目」をきっぱり否定し、頼もしい一面を見せた。ラストの男の子との会話でも、男の子に対する杏子の愛情が感じられ、心温まった。

この話の中心は、まだ小学生の男の子の本に纏わる思い出だ。私も思い出はあるが、この話のような大切な思い出というのは、なかなか無いものだと思う。単なるちょっとしたきっかけだろうが、そのモノ自体はかけがえのないものなのだ。しかもそれが本なのだから、私もなんだか嬉しくなった。しっかりとした形として残るモノが思い出になるというのは、とても良いことだと思う。ネタばらしになるので詳しく言えないのが残念だが、この短編集の中で一番オススメな話だ。

バイト金森くんの告白
新人歓迎会と称した飲み会の席で、バイトの金森くんがいきなり「成風堂で恋をした」と告白を始めた。周りの好奇心に押され、詳しい内容を語り出すのだが…。

この短編集の中で一番平和でほのぼのとした話だ。本編のミステリというよりは、番外編的な内容だ。しかし、書店業務の日常風景が詳細に描かれていて、その中からひょっこり手品のタネのようなものが出てくるのは、さりげなく大胆で、面白い。

そして、私のツボだったのは多絵ちゃんの心の不器用さだ(笑)。いつも通り絡まっている糸をスルリと解いたのに、当の金森くんの心情が読み取れない。むしろ「怪しい」と憤怒してしまう。性別や年齢の差もあるのかもしれないが、いつも通りじゃない多絵の様子が面白かった。手先がかなり不器用だが、恋愛方面も同じなんだろうな〜と思えて、微笑ましくもあった。多絵ちゃんの表情や仕草は本当に面白い、飽きさせない。

サイン会はいかが?
ある日、取次の藤永が成風堂にビッグニュースを持ってくる。それは、若手ミステリ作家のサイン会だった。しかし、それには条件があり、その作家の熱烈なファン「レッドリーフ」が誰なのか見破れる店員が必要だというのだ。そこで、多絵が謎解きをすることになり、従業員総出でサイン会の準備に取り掛かるのだが…。

感覚的にはクイズのようだった。「レッドリーフ」の可能性がある人物は、話が始まった時点で絞り込まれていたし、答えに関するネタはきちんと明かされていた。しかし、読者側は(私だけかもしれないが)、誰がその人なのかは全く分からないようになっている。多絵が明かすのはサイン会真っ最中で、その瞬間は本当にドキドキした。

話は少し逸れるが、作家という職業は大変なのだなと感じた。ラストの作家の語りは考えさせられた。作家の地位の大変さ・苦しさを垣間見た気がした。あれほど非凡であることを求められる職業も少ないだろうと思った。私たちが作品を通して持つ、作家に対する憧れや尊敬といった感情も、実は全て妄想にすぎないのかもしれない。そして、それを崩さない努力に、作家は日々追われているのかもしれない。

ヤギさんの忘れもの
成風堂常連の老人が、名取という店員を訪ねてくる。しかし、名取は数日前に引越しが理由で退職していた。老人はスナップ写真を見せることを約束していたという。老人は仕方なく帰ろうとするが、大切なスナップ写真が入った封筒を店に置き忘れてしまう。

一番短い話だが、これも良い。この店の店員と客の温かい関係が描かれ、最後に爽やかな風を運んでくる。ただ本を売るだけではなく、客と接し、相手に豊かな時間を過ごしてほしいという思いやりの姿勢が感じられた。こんな書店があったら本当に老人のように愛着が湧いてくるだろうと思った。書店のハシゴなんてしなくなってしまうだろう。


多絵と杏子を始め、各キャラの設定が相変わらず面白い。話の内容も後味がサッパリとして、切れ味も良い。しかし、シリーズ3作目としては、ちょっと刺激が足りなかった。間違いなく読み続けたい作家であり、シリーズであるのだが、今ひとつ…。

次回は、このシリーズとは関係ない作品で、舞台も書店ではないそうだ。どんな新しい世界を見せてくれるのか、とても楽しみだ。
Author: chiro
あ行の作家(大崎梢) | permalink | comments(5) | trackbacks(4)
 
 

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コメント:
書店の裏側のネタギレがちょっと心配です。
次はシリーズ外なので、その間にネタを蓄えて欲しい。
このシリーズは刊行スピードが超特急でしたね。
comment by: しんちゃん | 2007/07/24 5:36 PM
>しんちゃん
そうですね、ネタギレは私も心配しています。
幅がありそうで無さそうな気がします。

次は単品でも何でもいいので、焦らず良いものを書いてほしいですねぇ。
comment by: chiro | 2007/07/24 5:51 PM
chiroさん、こんばんは。

たしかに3冊続けて読んだらおなか一杯かもしれませんね(苦笑)
comment by: なな | 2007/07/24 10:02 PM
chiroさん、こんばんは。
「君と語る永遠」結末がすごくよかったですね。
広希くんが、お父さんとの約束を果たせる日が来たときのことを考えて
あたたかい気持ちになりました。
次の作品、そうですね、焦らず良い作品をお願いしたいですね。
comment by: 藍色 | 2007/07/25 2:21 AM
>ななさん
こんばんは。
とりあえず、このシリーズの次はすぐに出ないようなので、少しホッとしています(笑)。

>藍色さん
「君と語る〜」のような作品が大崎さんは上手いですよね。
ミステリでもこういう終り方だと落ち着きますね。
comment by: chiro | 2007/07/25 8:02 PM
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